地域猫推進寺

保健所に寄せられたノラ猫相談対応事例

事例1:ノラ猫のフン問題

相談内容

ノラ猫が我が家の狭い路地を通路にして、毎日庭にフンをしています。
臭いし、毎日のことなので掃除をすることも苦痛です。薬を撒いたら芝生が枯れてしまいました。猫が居なくなって欲しいです。

対応

猫が居なくなることを考えるのではなく、被害であるフンに目を向けて対策をすることです。(庭にフンが無ければ、この人は解決のはずです。)
基本的に猫が毎日来るのは、猫にとってその場所が居心地の良い場所だからです。対策としては、猫にとって居心地の悪い環境を作り、ここは嫌な場所であることを認識させます。
猫が庭に入らない方法(別紙)を組み合わせて、根気よく続けることを説明しました。
特に、決まった狭い通路が庭への進入路であれば、熱線センサー感知超音波侵入防止器(ガーデンバリア等)が効果的です。

※庭に入って欲しくない場合で最も効果が期待できるのは、猫に水をかけることですが、その時絶対に人の姿を見せない様にすることがポイントです。二階や家の角から水をかけ、あくまでも自然現象に見せることが大切です。
この場所を通ったら、最も嫌いな水がかかると学習させるのです。(猫が通る時間が分かった場合のみ有効)

事例2:空き地の後問題

相談内容

若い夫婦が念願だった新築の家を、長年空き地で放置されていた場所に建てました。ところが家の周りに毎日多量の猫のフンがしてあり、ひどい臭いに悩まされました。そこで土の部分を無くすために高額をかけて、家の周りを全部コンクリートにしました。
それでもコンクリートの上には以前と変わりなくフンをされ続けたため、ノイローゼになってしまいました。なぜこの場所だけでするのですか?

対応

周辺の住民に話を聞いてみたところ、「この辺はノラ猫にエサ与える人が多くいる地域で、特にあの場所は10年以上も空き地で、多数のノラ猫のトイレ場所になっていた。おかげで他の場所でフンをされることはなかった。」と笑って答えてくれました。
過去何年も猫のトイレ場所になっていた所が、急に家を建築されたために無くなり、猫としては順応出来なかったと思われます。これは猫の習性の一つである、場所に対する強い執着心、縄張り意識の現れだと考えられます。

猫が寄らない方法を根気よく続け、居心地を悪く感じさせるまでに1年半は経過しました。当初は、何をやってもまったく効果がなく、しばらくは怒りがおさまらなかったのですが、時間が解決してくれました。

空地を購入や利用する際は、ノラ猫についても十分に調べてから行動したほうが良いでしょう。

事例3:物置の子猫問題

相談内容

家の物置で子猫が5匹生まれています。近くで母猫がウロウロしています。
猫は好きでも嫌いでもないですが、ここに居られては困るので何とかしてほしいです。

対応

猫にとっては、静かで安心できる安全な場所と考えて出産したのです。この場所から居なくなれば良いのであれば、安心して子育てが出来ない場所であることを学習してもらえば良いのです。
例えば、物置の近くでラジオをかけるとか、わざと音を出して通行するとかで常に人の気配を感じさせると、子育て不適な場所と感じて一匹ずつくわえて移動を始めます。その時、いつまでも人が見ていては親猫が近づけないので無視しておきましょう。
(あまり追い詰めると母猫が子猫を食べてしまうか置き去りにします。)

ただしこれは根本的な解決にはなりません。母猫の不妊手術を実施しないとまた何処かで子猫を産むことになります。
そこで、子猫が離乳する4週間は母猫に育てさせ、その後はエサを与えて見守りながら母猫は不妊手術を実施し、子猫は新しい飼い主を探すことを提案したところ、周辺の住民同士で話し合い、猫の存在を容認し手術費用をカンパで集め不妊手術しました。
手術のための段取りや新しい飼い主探しは、動物ボランティアや動物愛護協会に協力してもらいました。
区役所に飼い主探し掲示板を設置し、写真付きでチラシを掲示すると予想以上の反応があります。

母猫が近くに居ないで子猫が置き去りになっている場合は、そのまま放置すると死んでしまうか、引き取っても2時間おきにミルクの世話をする人がいなければ育たない旨を十分説明し、飼い主不明猫の引き取り制度で処理せざるを得ないです。その時の条件として親猫への不妊去勢手術の必要性を理解してもらい、地域で話し合って早急に手術することを約束してもらいました。

生まれたばかりの子猫を世話できる時間に余裕のある人がいれば良いですがなかなか見つからない現状では、やはり出産させないための不妊手術の啓発が一番だと思います。

事例4:高齢者多頭飼い問題

相談内容

独り暮らしの高齢者がノラ猫12匹にエサを与えて世話をしていましたが、病気で長期入院してしまいました。残された猫は家の中と外を自由に行き来出来る状態であり、家の中は糞尿で汚染され悪臭が近所にも漂う状態で苦情になっているとの情報が、福祉保健課高齢者担当から相談されました。

対応

現場を調査した結果想像以上に悲惨な状態で、家中糞尿だらけ、残されたエサは腐敗しゴキブリが這いまわる中を12匹の痩せた猫が家の中と外を走り回っていました。
不妊去勢手術をしないでエサだけ与えていたためか、更に1匹の妊娠猫と3匹の2カ月令の子猫も発見されました。

今後どうしたいのか、高齢者担当を介して意思を確認してもらった結果、「猫の引き取り、安楽死は絶対にしない。猫は譲渡しても構わない。不妊去勢手術はする。エサ代は出すからエサを与えてほしい。家の中に入っても構わない。」との回答でした。
動物愛護協会と相談し、一人で世話ができる頭数ではないが、まず増やさないための不妊去勢手術の実施から進めることにしました。
(部屋の中は、整理出来ないのでエサを置くこととフン清掃のみ可能)

周辺住民と話し合う中で、エサを与えてくれる人はいないですが、手術済の猫の存在は否定しませんでした。そこで、夕方1回のエサを協会の人が担当、3匹の子猫を捕獲して新しい飼い主探しをしながら、他の猫の不妊去勢手術を順次行いました。

3ヶ月後、飼い主が退院する時にはヘルパーさんが部屋の清掃整理を実施し、11匹の手術済みの猫との生活が始まりました。(2匹は不明、3匹は譲渡)
まだ頭数が多いのでフンの処理や周辺の清掃が心配でしたが、話を聞いた近くの動物ボランティアが、猫用トイレの設置や清掃に協力してくれました。
周辺住民も一連の行動を知って、耳カットされた11匹の猫の存在は認めてくれました。

事例5:病院敷地内エサやり問題

相談内容

病院の敷地内でノラ猫にエサを与えている人がいるため増えて困っています。「エサやり禁止」と張り紙したのですが効果はありません。当初エサを与えていた職員には辞めてもらうと通告したり、近所のエサやりさんを立ち入り禁止にしたりしたのですが、次々に違う患者さんもエサを与えているために終息しません。病院としては不衛生なので猫は一匹も居てほしくないのですが、何か方法はありませんか。

対応

調査の結果、病院敷地内には6匹のノラ猫が存在し、ダンボール箱で小屋まで作ってありました。
病院側は小屋を撤去したり、エサを捨てる行動をするなど強硬に猫の存在を認めないため、猫がここに居ること自体が不幸であると考え、エサを与えていた人と話し合い、不妊去勢手術の実施と病院敷地外へエサ場を移動させることで合意しました。
幸い近くに空き地があり、半年かけて少しずつエサ場を移動していきました。その間、病院と周辺住民に事情を説明し適宜情報提供をしました。当初は反対していましたが、手術済であることと世話する人が誠実で熱心だったことで理解を示してくれるようになりました。
強硬に反対していた病院も、移動して敷地から居なくなるという目標が出来たため、見守りに協力してくれました。

その後エサ場にしていた空地も住宅になってしまいましたが、猫の世話を続けているとの話も苦情もありません。

事例6:公園置きエサ問題

相談内容

深夜、公園に自動車で来てノラ猫のエサを合樹トレイの上に置いていく老夫婦がいます。置き去りにされたウエットのエサには、ゴキブリが群がり気持が悪く、朝までエサが残っているとカラスが散乱させ非常に不衛生です。不妊去勢手術もしない、エサの容器も片付けない、フンの掃除もしないのでは地元の迷惑でしかありません。わざわざ遠くまで来て、自己満足の単なるエサやりは絶対にやめさせてほしいです。

対応

自分の住居周辺以外の地域へ行ってエサだけを与える行為は、地元の迷惑を考えると絶対に止めるべき行動です。
周辺地域の人ではなく、どこの誰だか分からないことから対応は難しいですが、常にエサを置いていく場所に「置きエサは迷惑です」「エサを与えるなら片づけとフン清掃を」「不妊去勢手術も実施して」などの看板やポスター、チラシを設置して、まず目にしてもらうことから始めました。

数日後、看板は無残にも千切られ放置されていました。そこで、再度「夜、自動車でエサを置いていくあなた、なぜ片付けないのですか。エサの放置で猫が嫌われてしまいます。」など文面を特定の人物を想定して書き直して設置しました。
公園でのエサやり禁止と言っているのではなく、周辺住民に迷惑がかからないように、きちんと猫の世話をしてほしいのです。それが出来ないのならば、絶対に遠くから来てエサだけを置かないでほしいです。

さらに、周辺住民も自分たちのことと位置付けて、情報を集めながら夜間パトロールを実施しました。(老夫婦と直接出会うことはなかったですが、それらしい自動車が止まっていたことは確認されていました。)

2週間後には、自動車でエサを与えていた人はパッタリ来なくなりました。やはり、地域住民の監視の目が一番効果的です。

事例7:周辺住民に理解されない問題

相談内容

一人で家の周辺にいるノラ猫に不妊去勢手術をし、庭でエサを与えて周辺のフン掃除もやっていますが、周辺住民から全く理解されません。私のやっていることは間違っているのでしょうか。

対応

ノラ猫と人間が共存していくためには、いくつかの条件が必要です。猫の数を増やさない為の不妊去勢手術の実施、猫の世話を適切に管理していくためのルールすなわちエサの時間、場所の取り決め、フン清掃の徹底、それに周辺住民の理解が必要なことです。
やっていることは間違いではないですが、あと一歩住民への説明が足りなかったのです。

そこで保健所からのアドバイスとして、やっていることの目的や意義をチラシ、ポスターにして周辺住民に周知することから始めることを提案しました。
文面も猫のためにやるという説明では住民は納得し難いですが、地域の環境美化として対応している旨を説明することをアドバイスしました。
同時に保健所も町内会へ回覧用のチラシを作成し、地域全体に「ノラ猫との共存」を共通認識してもらうために配布しました。

すると、複数の賛同者、協力者が現れ、庭だけでなく周辺にいる猫の不妊去勢手術も賛同者や協力者の力を借りて実施することができました。
そして定期的に、実施した内容や実績を周辺に報告して情報の共有化を図ることで理解が進み、地域の問題として町内会が協力的になっていきました。

ノラ猫の数をコントロールしたことと猫の世話をきちんとしたことで、ノラ猫によるトラブルは確実に減少していきました。
その後この町内会は、地域猫活動実施地区としての名乗りをあげました。

事例8:ノラ猫増えすぎ問題

相談内容

猫が大嫌いな民生委員から、「町内にいるノラ猫が50匹位まで増えたために、猫にエサを与えている人と迷惑を受けている人が揉めています。何か良い解決方法はないものでしょうか。」との相談がありました。

対応

これだけの頭数になっていると、エサを与えない、追い払う、フンの清掃等の個人努力で解決することは大変難しいです。ノラ猫の問題を地域の問題として捉えて、皆で考え、皆で話し合い、皆で行動するという地域力を活用する方法を提案しました。

相談の時、不妊去勢手術を実施しないと短期間で猫が増え続けること、エサを与えなくても新たなトラブルが発生すること、トイレ場所を確保し清掃する等のフン対策を実施することで解決を目指す「地域猫活動」の方法があることを説明し、この考え方を地域の人達に広く知ってもらうことで理解者と協力者を得ることをアドバイスしました。

不妊去勢手術を実施しない場合

猫は一年に2~3回出産が可能で、一回の出産に5~6匹の子猫を産みます。生まれたメスの子猫は、6か月経てば出産が可能になりますから、アッと言う間に次々と猫の数が増えることになります。

エサを与えなくなった場合

エサを与えなくなると、力の強い猫は新たな場所へ移動して先住猫達と戦いながら生活することも可能ですが、弱い猫達は自分の生活していた場所が自分のテリトリーなのでその場所に留まり、あまり移動することはありません。例え一時的に移動しても場所への執着心から戻ってきます。そしてゴミを漁ったり、大切に飼育している鯉や金魚、小鳥を捕まえて食べたり、家に入って食べ物を探したりと生きていくために何でもするようになり、新たなトラブルが発生します。

民生委員は「私は猫大嫌いだから、何とかしたい。」と言いながら、猫問題の現状をチラシにして回覧しました。(トラブルのこと、猫の数把握、フンによる汚染など)
次に町内の一軒一軒を回って、ノラ猫問題を地域で解決していく主旨と不妊去勢手術費用のカンパを呼びかけました。この行動で住民は、かなり猫問題に関心を持つようになりました。
そこで町内会会長と相談して、ノラ猫問題をテーマにした住民集会開催を提案し、実行しました。

集会は、猫で困っている人がエサやり禁止と迷惑の実態を訴え、ノラ猫の世話している人を怒鳴ることから始まりましたが、怒鳴っていても解決しないこと、エサやりを止めても根本的な解決にならないこと、地域全体の問題と捉えて対応すること等を踏まえて話し合いが進みました。(5回開催)

そして、早急に町内にいるノラ猫の不妊去勢手術を完了させること、今エサを与えている人が中心となって世話をすること、エサの場所、時間、フン清掃などの地域ルールを決めて町内会が一体となって環境美化の一環として進めること、被害で困っている人もしばらく見守ること、トラブル発生時には再度検討すること等でまとまりました。

集会後、不妊去勢手術用に緊急カンパが実施され、動物ボランティアの協力を得ながら一気に40匹の手術を完了させました。
また、エサを与えていた人達が中心となって活動グループが結成され、猫の飼育管理をしていきました。特に問題の多いフン対策としては、猫のトイレ場所となる柔らかい砂場を出来るだけ多く作り、定期的に巡回して掃除する「うんちパトロール」を実行しました。また、フンを見つけた人が活動グループに通報してもらう仕組みを作って対応しました。

民生委員は、集会の内容、カンパの報告、手術の状況、地域のルール作成、フン清掃状況等一連の活動報告を頻繁に回覧し、住民に情報提供していきました。

5年が経過して町内で世話している猫は半分になり、世話する人もエサ場もトイレ場所も減少し、ノラ猫のことが話題になることも少なくなりました。

成功のポイント

  • 猫嫌いで有名な人が率先して動いたことで、地域住民の信用が得られやすかった。
  • 責任感、行動力のある中心となって世話をする人が存在していたために、協力者や理解者が多かった。
  • 町内会の役員が活動をサポートしたことで、地域の理解が得られやすかった。
  • 話し合った内容、行動などを随時報告書として回覧したことで、地域住民が情報の共有をすることができ、共通認識を持たせることができた。
  • 行政が話し合いの場を設定し、集会に参加したことで住民の理解が得られやすかった。